Enthusiasm

The Enthusiasts in Oahu, Hawaii

またまた、久しぶりのブログになってしまいました。
予告していたマヤの遺跡の記事を書くこともなく(ごめんなさい)…ほぼ一年ぶりです。
その前も一年近く間が空いていたので、新たに書くことも少し躊躇してしまうのですが…でも、なんだか書きたいなという気持ちになったので、久しぶりにこうしてパソコンに向かっています。

もともと文章を綴ることは好きの方なのですが、ここ数年あまり書く気がしなかったのは、陶芸や絵画など別の表現手段の方にエネルギーが注がれていたからかもしれません。
ビジュアル的な表現をするときはやっぱり右脳的というか、イメージやインプレッションの世界なので、文章を書くときとはまた違ったところが活性化していたのかな、と思います。
日々の体験から色々なことを感じたりしても、それをいざ文章にしようとるすると全然まとまらなくて、無理にまとめようとすると膨大なエネルギーが必要になるので次第に面倒になってしまって。

そんな具合で、ここしばらくは、それまで毎日のように読んでいた本も、全然読めなくなってしまっていました。文章を追っていても、頭に入ってこないのですよね。
その代わり、映画や漫画を多く鑑賞していました。
漫画なんてもう子供の頃以来ほとんど読んでいなかったのですが、この歳になって再度読んでみて、その素晴らしさに感動しました!


アメリカはじめ西洋社会は、主に文章と言葉の世界です。論理的で、確定的で、文字や言語によって様々なことを表現し、説明しようとします。
それに比べて日本では、生活のあらゆるところで図や絵が使われているということを、私もアメリカに来てから初めて実感しました。
以前日本に住んでいたアメリカ人のアーティストが、その点を指摘していて印象に残っていたのです。日本は何に関しても —例えばちょっとした地図などでも、記号やマークだけでなく、絵が組み込まれていて不思議な感覚だよ— と。

こちらでは、例えばレストランのメニューも写真はほんの少しで、あとは全て文章で説明してあります。料理本などもそうです。なので、出来上がりの料理のイメージがわからなくて、逆に想像力を必要とされるのは良いところなのかも知れませんが。

芸術の世界においてでさえ、例えば西洋のクラシック音楽などはとても構造的だし、絵画でも、西洋ではある程度早くから立体的な陰影表現や遠近法が使われていたのに対して、日本の浮世絵などは平面的で、何よりとても心象的なのですよね。実際の物理的距離や構造よりも、何を描きたいのか、どうとらえているのか…という世界なのです。


ちょっと話が逸れてしまいましたが、数年間本ばかりを読んだ後に久しぶりに漫画を読んでみて、その情報量の多さ、躍動的、流動的でまるで切れ目がなく、無理なくすんなりと入って来るようなその感覚に驚いたのです。
絵とセリフ、独特のコマ割り…本を読むよりも、確実に多くの機能を使い、ロジカルに「理解する」のではなく、言ってみれば自動的に吸収しているかのような感じです。

今では世界中で人気の日本の漫画やアニメですが、中には漫画をどのように読んだらいいか分からない人もいるそうで、確かに今まで文章の世界で生きて来た人にとっては、漫画を読むにはある種の感性やちょっとしたコツが必要なのかも知れません。

西洋の言語は表音文字であるアルファベットで成り立っていますが、日本人は表意文字である漢字と表音文字であるひらがな、カタカナを普通に使い分けていますよね。
そういうところも、知覚や認識の仕方に差を生んでいるのかも知れないなと思うのですが、きっと日本人は西洋人よりも、文化的に絵や図といった表意の世界に慣れ親しんできているのでしょう。


とはいえ、日本もだいぶ西洋化したせいか、最近の漫画は昔に比べるとだいぶ論理的で筋が通っているなぁと思いました。
私が子供の頃の漫画なんて、ほんとうに、インパクトはあるけれど行き当たりばったりだったり、突っ込みどころが満載だったりするのですが、そこに「理屈ではない魅力」があって、グイグイと引き込まれるような感じがありました。子供の頃に夢中になったのが、よーくわかるなぁ…。
そのような感覚を久々に体感して、なんだか自分の中の枯れていた水脈がまた蘇ったような…そんな感じがしました。

陶芸も、絵を描くこともそうなのですが、私にとっては完全に言語外の体験です。
もちろん頭を使ってロジカルに考えなければいけない工程はありますが、モチーフ、線、色…というものたちと対峙したり共同したり融合したり…という感覚は、言葉には表せないものです。
通常とは意識が変わり、細胞の隅々までがふるふると震えて、自分自身を根こそぎ味わうような、そして同時に自分が全く失くなってしまうような。
時間感覚もなくなって、何とも不思議な経験をすることもよくあります。



"Enthusiasm"という英単語があるのですが、これには「熱中」とか「熱狂」とかいう意味があり、文字どおり、情熱的に没頭したり歓喜のごとく夢中になっているような状態を表します。

去年もブログに書いたのですが、私が感性を大切にしたい理由は、この"Enthusiasm"を味わいたいからなのかもしれないな、と思うのです。
それは肉体的にも、精神的にも、そして知的レベルでも起こり得る、細胞が震えるほどの感動を味わう、ということです。あくまでも私の中の定義ですが、それはいわゆる「心で感動した!」というのとはちょっと違っていて、それを超えたところにあります。
それこそ言葉では的確に説明できないし、その体験自体も感じ方も様々で、意外と地味だったり、とても個人的で他人にとっては何ら意味をなさないようなことだったりもするのです。

それに、"Enthusiasm"を感じられるのは、地球上の生物では人間だけです。(※イルカクジラは除く…と私は思っています。)
「人間だって動物だ」というのも、その通りだと思います。食べて、寝て、排泄して、生きるために必要なものを得て、子孫を残して。それが生きるということだよ、と。
…でも、それだけではないですよね、人間は。
それだけではないように創られているのです、私たちは。
何のために、こんなに発達した脳を持っているの?何のために、様々なことを便利にこなせる五体を持っているの?それは、単に物理的に発展するためだけなのでしょうか?

私は、様々な機能があるのは、単にそれらを使って満足な状態を作り出すためだけではないと思うのです。
ほんとうは…それらを駆使した先にあるものを、見るためなのではないでしょうか。

"Enthusiasm"の語源は、ギリシャ語で「神に取り憑かれた状態」なのだそうです。
ひょっとしたら、私たちはそれを感じることで、時間も自己も超えた、制限のない神の領域を味わうことができるのかも知れません。

Photos by PaulphinPhotography

この一年も、色々な場所に訪れ、人に会い、別れ、時には自分の世界に引きこもったりしながら、様々なことを感じたり、考えたりしていました。
そしてあっという間に月日は流れ、私は今、フロリダにいます。
この春、5年間住んだボストンを離れてこちらに引っ越してきたのです。

こちらでは、小さいですがお庭とプール付きの一軒家を借りているので、毎日、太陽の光や土や水の感触に触れている時間が長くなり、それが私の感性をまたゆるゆるとほぐしていってくれているのを感じます。
やはり、ボストンは思考モード、男性性の強い街だったなぁと思います。
でもその中で経験したものはなんだかとても大きかった。
良いとか悪いとかではないのです。
ボストンで、自分の才能を輝かせて生き生きとしている方を、私は何人も見てきました。
私には真似できないような、エネルギッシュで強い自己を持つ人たち。すごいなぁ、といつも感心させられ、圧倒されていました。
その中で、自分とは…ということを、常に問いかけられる日々でした。

                                  Photo by PaulphinPhotography

そして今、陽の光が差し込む大きな窓辺で、風に揺られる庭の木々のを見ながら思うのは…
けっきょく、いつでもどこにいても、私は私で、世界の中心は私なんだな、ということです。
それは、以前に空海のことに触れたこの記事や、ニューメキシコを去る時のこの記事ともリンクしていて、「自分がいるから世界がある」し、「いまここ」ということです。
それは概念ではなくて、たぶんそれが、この世界の仕組みなのだと思います。

とりあえず、緩んできたおかげで、こうしてまたするすると文章が出てくるようになって、こういうのって気持ちいいですね。
去年の春に訪れたトルコのことなども、色んな想いや写真がたくさん溜まっているので、この調子でまた色々と書いていけたらいいなぁと思っています。


ところで、今回の写真は、去年の秋にハワイでドルフィンスイムをした時のものです。(水中写真は、同行のフォトグラファーさんが撮ったものです。)
野生のイルカと泳ぐという念願が叶ったわけなのですが、イルカたちってやっぱり本当に素晴らしいです…!
自由で、プレイフルで、本当に気持ち良さそうで、ただただ綺麗で…彼らの泳ぐ姿を、ずっと眺めていたかった…
ハワイでは自然保護の観点からイルカに直接触ってはいけないのですが、触れ合えなくても同じ水の中にいるだけで、不思議な一体感を味わいました。
イルカたちも、たぶん"Enthusiasm"を感じる能力を持っていると思います。むしろ、それを中心に生きているんじゃないかな?というくらい。
ウミガメにも会いましたが、彼らはきっとオールドソウルですね。太古からの叡智がすべて刻み込まれた、仙人のような存在だなぁと思いました。


明日は、いよいよ夏至ですね。

イルカと泳いだ夜に浮かんでいた下弦の月。
ハワイでは星も綺麗だったので、毎晩星座を見ながら海辺を散歩しました。



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