Now and Here



大地はあなたに耳を傾け、

空と、木々の覆い茂った山は、あなたを見つめている。

あなたがこのことを信じるならば、

あなたはちゃんと年を取れるようになる。

(インディアン・ルイセノ族の言葉)


二年前の春にニューメキシコに引っ越してきて、ここで最初の夏を
迎えた頃、私は毎日この土地の大自然に圧倒されていました。

戸惑いと好奇心がごちゃ混ぜになったような感覚はなかなか言葉に
ならなくて、でも、あのゾワッと鳥肌の立つような雨の音や匂いや
見たことのない空と雲の色、そして野生動物たちの姿に、なにか
ロジカルに考えるよりも、ただ感じることの単純な喜びを思い出す
ことに夢中になるような日々でした。

キャッチボールをしたり、プールで泳いだり、毎日スッピンで
日焼けも気にせずに暮らす日々は、まるで小学生の夏休みのようで
そうしている内に、何だか毎日鏡に映る自分の顔も、日に日に
子供の頃の自分の顔に戻っていくように思えて、我ながらまじまじと
見入ってしまったりしたものです。


もうすぐ、ニューメキシコでの三度目の夏が近づいてきています。

今ではここの風土や自然は、すっかり自分に近く感じられるように
なり、休日にはふらりと自然の中を歩きにいって、大きな岩の上に
ゴロンと横になって空を眺めたり、目を閉じて虫のブーンと飛ぶ音や、
小鳥のさえずり、鳶の羽ばたきや風の音などに耳を澄ましたり・・・

そんなふうに過ごしていると、自分がまるで自然と一体化したかの
ような感覚になって、この上なく幸せで心地よく、何かもうずっと
このままでいたいというような気持ちになります。


今年はもうすぐそこまで来ている夏を前に、私たちはここを去り、
ボストンへと戻ることになりました。


人はしかるべき時にしかるべきものに出会えるようになっている
のだとしたら、 私がニューメキシコというそれまで縁もゆかりも、
何の知識さえもなかった場所に来て、しばらくここで暮らしたことも
何か運命のようなものだったのかなぁ、と思うことがあります。

それくらいに、ここでの暮らしは、私にとってかけがえのないものを
たくさん与えてくれたのでした。

それは本当に些細なことで、表立ったことではないのですが、
自分の中にずっと欲しかったものが根付き、芽生えたような、
枯れかけていたものが息を吹き返したような
長い間冬眠中だったものが目覚めたような・・・
そんなようなことです。

そしてそれらは、表層意識とか認識とか感情とか、
そういったもののもっと奥深く、とても根本的な部分での変化で、
あれこれ考えたり、喜んだり悲しんだりする以前の、
ただ「存在する」ということへの安心感とでもいうようなものが
自分の中に生まれたからなのかも知れません。


不思議なことに、ここでの暮らしが終わりに近づいたここ最近のこと
私は人生で初めて、老後のことを想うようになりました。

それまでは、頑張ってみても10年後の未来のことくらいまでしか
思い浮かべることができなくて、自分が老いた時のことなど考えた
こともなかったのに、本当にあるとき突然ふっとイメージが浮かんで
きたのでびっくりしたのですが、 それはとっても穏やかで幸せで、
年をとるのが楽しみになるような、そんなイメージなのです。

子供の頃の感覚への回帰から始まって、老後のことに想いを馳せて
ここでの暮らしが終わろうとしているなんて。

それがなぜなのかはわかりませんが、でも、このニューメキシコと
いう場所がそう思わせてくれたのだなぁと、それだけは確かなことと
して感じています。


私は、ちゃんと年を取れるようになったのかな?


先日は、最後のギフトのような金環日食を見ることができました。

アルバカーキは今回の日食を観測できる場所のちょうど最後に位置して
いたので、幸運にも東海岸へ移る前に見ることができたのです。

夕暮れどきの西の地平線上で太陽がだんだんと欠け始め、ついには
黄金の環となるその瞬間は何か、特別な時間の中にいるかのような
気持ちになりました。

そして、もしかしたらニューメキシコで暮らしていた間ずっと、
私はその特別な時間の中にいたのかもしれないなぁと、なんだか
思ったのでした。



のびやかな空に、大きな満月。

夏の日のスコールと、その後にかかる大きな虹。

砂嵐。稲妻のショー。

幻想的なホワイト・サンズ。

ネイティヴ・アメリカンの想い。


消費することよりも創造することの楽しさを、
探し求めるよりもじっくりと育むことの喜びを、
そして、今ここにただ存在していることの幸せを教えてくれた
このニューメキシコに、「ありがとう」という気持ちで一杯です。



すべてのものが、あなたのために用意されている。

あなたの道は、前方にまっすぐ伸びている。

ときどき見えないこともあるが、それでも道はそこにある。

道がどこへ続いているのか、あなたは知らないかもしれないが、

どうしてもその道をたどっていかなければならない。

それは創造神への道であり、

あなたの前に伸びているのは、一本のその道だけなのだ。

 (レオン・シェナンドア首長/オノンダーガ族)

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