Nature


子供の頃、夜中に家族全員が寝静まると
家を取り囲んでいる木々がまるで巨大な波のうねりように
ザザザザザーッと風に揺れる音が聴こえてきました。

街灯もほとんどない田舎の家。

夜の中、そこにあるのは星空と風に揺られるその木々のざわめきだけで
私の家は その真ん中にぽん、と置かれているかのように感じました。

ざわざわ、ざわざわ。
その音はまるで何か大きなものが私に語りかけてきているようで
不思議な、守られているかのような深い安心感とともに
私はなんだか怖くなって、急いで布団に包まって眠りました。

あのとき私が感じていたものは「畏怖」というものだったんだろうな
と最近になってよく思い出します。



ボストンでの生活は人との交流が何よりの思い出として残っているのですが、ニューメキシコに移ってからは、この土地そのものからの印象をとても強く感じます。

吹きっさらしの強い風に、焼けつくような太陽。
空気はとても乾いていて、日陰に入るとひんやりと涼しい。

光と影のコントラストが強いため景色はくっきりと鮮やかで、とくに夕方の太陽が山々を彫深く浮かび上がらせる様子などは、とても美しくて感動的です。

地面もカラカラに乾いていて、植物たちはその上を這うようにバラバラと生え、まるで地中の限られた栄養分を少しでも多く吸収しようとしているかのようです。


一見枯れたような色をしているその植物たちですが、もちろんちゃんと生きていて、そんな姿をまじまじと観察したり触ってみては、よくもこんなところに生きているなぁと、感心してしまいます。

年間300日は晴れているというというこの地、そこに時おり雨が降るとそれは何とも原始的で、まるで原生林に降り注ぐ雨のよう。

乾ききっていた地面や植物たちはここぞとばかりに水分を吸収し、熱が蒸気となって上にあがってくると、辺りは独特の雨の匂いに包まれます。

空気は一気に冷やされ、肌にひんやりとした質感を感じて降り止んだ空を見上げると、そこには信じられないような光と雲の一大スペクタクル!

そのダイナミックな自然の姿に、私の五感はまるで眠りから覚めたかのように刺激され、なんだか自分も野生に戻ったような、不思議な感覚になります。

近くの荒野を散歩していて、動物たちと出会うことも。

野うさぎやプレーリードッグは可愛くて、つい追いかけてしまいたくなるし、一度少し遠くにコヨーテの姿を見かけた時には、その孤高とした存在感にしばらく見とれてしまいました。

山に入れば、そこには鹿に熊に野生の馬、そしてなんと猛獣のクーガーや、毒を持つタランチュラや蠍など、日本ではなかなか身近に感じられない生き物までもが生息しているとのこと。

ハイキングをした後でそのことを知った時には、さすがにちょっと怖くなりました・・・!!

日本よりもだいぶ力強く逞しい印象の大自然。
その中で私は、ただただ圧倒され、自分のちっぽけさを感じるばかりです。

その昔、この地に暮らしていたネイティブアメリカン=インディアンたちは、自然を敬い、自然とともに生きていたといいますが、なぜ彼らがそのような生き方をしていたのか・・・
この大自然に恵まれた大地を見れば、それは一目瞭然だと思いました。

強くて、逞しくて、優しくて、人間よりもずっと広く深く大きな自然。

私たちはその中に生まれ、生かさせてもらっている。
そうだ、私たちもこの自然の一部なんだということを、この土地は思い出させてくれるような気がします。













高層ビルにファストフードのチェーン店
ショッピングモールや舗装され張り巡らされた道路
そしてそこに駆け出して車に轢かれてしまった動物たち。

気分良く車を走らせ、オーガニックスーパーの紙袋を抱えながらも
時々そのような風景に、胸がチクリと痛みます。

今のこの私たちの当たり前の日常が、豊かな自然の上に成り立っていること
そして、それを敬って生きていた人たちの想いの上に成り立っていることを
いつも忘れずに、ちゃんと感謝していなければいけないんだな・・・

この先また都会で暮らすことになっても、ここでの生活で感じたことは
きっととても意味のある、大切なものになるような気がします。

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