The Ancient Spa Resort - Pamukkale
トルコ旅行の続きです。
エフェソスで古代の人間が創り上げた芸術作品に感銘を受けてから、今度は大自然の創り出した芸術作品を見るため、パムッカレという場所に訪れました。
エフェソスから車を内陸部に向かって2時間半ほど走らせたところにあるのですが、エーゲ海側にあるイズミル県からデニズリ県へと移るため、辺りの雰囲気もぐっと変わってきます。
夕方にエフェソスを発ったためすぐに夕暮れが訪れ、途中から辺りは真っ暗で何も見えなかったのですが、しばらくは何もないような田舎道をずっと走っていたような気がします。
けれどもパムッカレに近づくと、宿やレストランがぽつりぽつりと現れて来て、観光地に入ったのかな、というような雰囲気になってきました。
とはいえ辺りは真っ暗なので周りの様子もよくわからないまま、とりあえずホテルにチェックインして、どっぷりと疲れた体をベッドに沈ませて眠りについたのでした。
真っ白な世界、パムッカレ。
次の日の朝、近所で飼われているのか「コケコッコーーーーーー!」という鶏の声で目を覚まし、のんびりとしたホテルの中庭で朝食を済ませてからチェックアウトをして外に出ると、なんともうすぐそこにパムッカレが見えていました。
前日到着した時は辺りは真っ暗だったので、こんなに目の前にあるなんて、気がつかなかったのです。
何の変哲も無い田舎街の風景の中に、なぜかそこだけ真っ白な山が出現している・・・それが、パムッカレでした。
この不思議な白い山が形成された理由は、ひとえに大自然の神秘的なマジック、という名の化学反応。
ここの大地の石灰岩に二酸化炭素を含む弱酸性の雨水が浸透することによって、炭酸カルシウムが溶けた地下水が作られ、その地下水が地熱で温められて温泉となって地表に湧き出てくるそうで、その際、石灰が沈殿していき、このように真っ白な石灰棚の形状が出来上がるのだそうです。
綿のような雲のような・・・でも、硬いですよ。
「パムッカレ」とはトルコ語で「綿の宮殿」という意味だそうで、確かに温泉水の流れによって創り出された有機的な形状は、なんだかモコモコしていて、綿のようにも見えます。
一面真っ白な綿のような宮殿・・・なんて、ロマンチックなネーミングですね。
このパムッカレをひとめ見た時、私は昔住んでいたアメリカのニューメキシコ州にあるホワイトサンズのことを即座に思い出しました。
ホワイトサンズも、自然が創り出した真っ白な世界だったのです。
雄大な山々やスケールの大きな渓谷、多様な植物が群生して作り出す樹林など、これまでにいくつかの大自然が生み出した素晴らしい景観を見て来ましたが、ホワイトサンズを見たときには、「自然の造形物」という言葉に対して抱いていた概念がひっくり返されるような、そんな強い衝撃を受けました。
こちらが真っ白な砂丘、ホワイトサンズ。
これまで見て来た自然の芸術の中でも、私の中ではナンバーワンです。
少し雲が出ている時も、ニュアンスがあって幻想的で素敵でした。
当時ホワイトサンズに特化した記事も書きたかったのに、結局書かず終い。。
また書いてみようかな。
こんなに静謐で、繊細で、幻想的で、あまりにも美しい・・・ここは本当に地球なんだろうかと、そんな気分になったのです。
まるで別の惑星に来たかのよう。
荒々しさがないのです。もちろん、実際にはあるのでしょうが、印象的にはそれがありませんでした。
それはやはり、その「白」という純粋性の化身のような色の効果によるものなのかもしれません。
見渡す限りの白い砂丘。
そして太陽の光の加減や雲の出方によって、その場全体の色のトーンが少しずつ変化していく様子。
本当に、「こんな光景見たことない・・・」というような自然の芸術作品の中に、自分がすっぽりと納まってしまうというその感覚は何とも言いがたく、まさに異世界体験のような感じがして、すっかり魅了されてしまったのです。
パムッカレも、その真っ白な石灰棚に湧き出した温泉水が溜まり、それが空の美しい青色を映し出し、やがて夕刻になるとその色は薄ピンクに変わってゆく・・・そんな光景が見られるということで、世界中から観光客が訪れているところです。
私も、その光景をとても楽しみにしていました。
ところが・・・
白すぎて飛んでしまっていますが、中央部に段々と石灰棚があって、
かつてはここに温泉水が溜まり、あの素晴らしい絶景となっていたのです。
・・・温泉水が、全然、溜まっていない・・・!
石灰棚は干上がって、真っ白のまま。。。
あの、期待していた美しい景観は、どこにも見当たりません。
なんとなんと、残念なことにここ近年だんだんと温泉が枯れてきていて、そのような光景は見られなくなってしまっているということなのです。
実は、ホテルをチェックアウトするとき、オーナーの男性が申し訳なさそうに、または気の毒そうにこう言ったのです。
「残念だけど、あの絶景を期待しているのなら、がっかりすると思うよ。」
実は、この地が観光地となると共にたくさんのホテルが建てられ、皆このパムッカレの温泉水をここぞとばかりに自分のホテルのスパへと引いてしまったため、温泉はずいぶんと枯れてしまったのだとか・・・!
そ、そんな・・・。悲しすぎます。
現在ではホテル側に規制がなされているということなのですが、昔のような景観がまた見られるまで、いったいどのくらいの年月がかかるのでしょうか。
もう少し早く気がつけたらよかったのに・・・と、とても残念に思いました。
石灰棚の表面にはこんな風に、「かつて温泉水が流れていた」というような跡のみが。。
それを考えると悲しいのですが、今でも足元には温泉水が流れて来ているので(人工的に流しているという話も聞きましたが・・・)、裸足になって、その生ぬるい温泉水にパシャパシャと足を浸しながら一面の白い世界を歩くのはとても気持ちがよくて、実際はけっこう楽しめました。
頂上まで上ると眺めも良くて、冒頭に載せた写真のようにこの辺り一帯が見渡せます。
そして実は、この頂上にもヒエラポリスというローマ時代の遺跡があるのですね。
この湧き出る温泉水を利用して、ローマ時代にはこの地は温泉保養地として有名だったということで、これは・・・まさにテルマエ・ロマエの世界!
古代ローマ人って、本当に温泉が好きだったのですね。
こんな風に、温泉水が溜まっている部分も少しだけありました。
(人工的に流しているのだそうですが・・・涙)
私たちはこの後に、この日のうちに絶対に訪れたい目的地があったため、その時間を考えるとヒエラポリスの遺跡に行く時間はなく断念したのですが、古代ローマ人もこの温泉水を利用して癒されていたのかぁと思うと、なんだかやっぱり温泉好きの日本人としては彼らに親近感が湧きますね。
期待していた絶景が見られずにちょっとがっかりでしたが、一面の白い世界はやっぱり素敵だったし、古代ローマの温泉地に来られたと思うとそれだけでもなんだか嬉しくて、来てみてよかったなぁと思いながら、パムッカレを後にしました。
さて、ついに次回でこのトルコ旅行記も最終回となります。
この旅の最後の目的地である、名前を聞いただけでどうしても行ってみたくなった、とある遺跡のお話です。