Feels Like Home


新年が明けたばかりだと思っていたら、早いもので、すでに2月も半ばになりました。
ボストンの冬は今年も厳しくて、先月後半から寒さと、ちょっと異常なくらいの雪の日が続いています。
回数を重ねて、ボストンの冬にもだいぶ慣れてきたとはいえ、今日も窓の外は真っ白で、空はどんよりとした灰色・・・晴れ間がのぞく日などは本当に珍しく、意識的に心をコントロールしていないとちょっと参ってしまいそうです。
そんな時には、こんな冒頭のような青空の写真をみて心の中を晴れやかに。

実はこちらは先月、以前住んでいたニューメキシコ州に行ってきた時の写真です。空が青い!
そうなのです、ずっと、また行きたいなぁ〜と、なんとなく思っていたことが、とあるタイミングでパパッと実現して、なんと2年半ぶりに、あの大好きな土地をまた訪れてきたのです。

以前はボストンからニューメキシコへ引っ越した時も、ニューメキシコからボストンへ戻ってきた時も、車での引っ越しで、飛行機での移動は何気に初めてだったのですが、車で何日もかけて走った時には、何か本当に遠い果ての地のような気がしていたニューメキシコも、当たり前ですが飛行機だとあっという間なのですね。


着陸時に、眼下に広がるひたすらに茶色い大地。
「何にもない〜」と思われるかもしれませんが、私にとっては、これを見た時にはまるでホームに帰ってきたかのような安心感がしみじみと湧き上がってきたのです。

そして空港に着いた時のあの感覚は本当に忘れられません。
のんびりとした空気感に、強い日差し。殺伐とした極寒の都会から、一気に緩やかな別世界へ来たなぁーという感じがしました。
ニューメキシコの都市、アルバカーキの空港はサン・ポート(Sunport)というのですが、まさにそんな感じ。お日様の港です。

そういえば、飛行機がサンポートに着陸する前に、生まれて初めてブロッケン現象をいうものを見ました。
これは、見る者の背後から強い太陽光が差し雲にその影が映し出される時、雲に当たった光が錯乱して影の周りに虹のような光輪となって現れる現象です。

雲に映った飛行機の影の周りに、幾重にも虹の輪が。

ニューメキシコの強い太陽の光のなせる技だったのでしょうか。
Glory(栄光)や御来迎とも呼ばれるこの不思議な光学現象を目にして、到着前から大興奮。
なんだか「お帰りなさい!」と歓迎されているような気がして、嬉しくなってしまいました。

目の前にサンディア・マウンテンがパノラマのように広がる
お気に入りのドライブコース。右手にはバッファロー牧場

久しぶりのニューメキシコは、頭上に一面の青い空、そして足元には見渡す限りの逞しくて優しい大地が広がり、視界はずっと先まで開けていて、澄んだ空気に静かでのんびりとした雰囲気。以前と変わらず、とても気持ちの良いところでした。
ちょっと歩いて自然に呼吸をしているだけで、不思議と体も心も元気になってくるような感じです。

ニューメキシコというと年中暑いところのような印象を持つ方も多いと思うのですが、実は標高が高いので冬はそれなりに寒く、雪が降ることもあります。けれども極寒のボストンから来た身にしてみればそのくらいの寒さは何ということもなく、また私が訪れていたのは運良くスノーストームの狭間の時期だったので毎日お天気も良くて、日中は汗ばむほど気温の上がる日もあったりと、青い空の下ただただ気持ちのいい時間が流れていきました。

滞在中にしたことといえば、昔いつも歩いていた散歩コースに行ったり、お気に入りのカフェでコーヒーを飲んだり、久しぶりの友人たちに会ったり、通っていた陶芸スタジオを訪れたり・・・以前そこで暮らしていた時にしていたような、日常的なことがほとんど。
そうすると、最初はなつかしいな〜と思って何をするにも新鮮な気持ちだったのが、3、4日もすると、もう普通にそこに住んでいるかのように以前の感覚が戻ってきて、なんだか不思議な感じでした。

お気に入りの場所だった山の麓Foothill。今回はここで一匹のコヨーテに出会いました。

以前と同じ場所に同じサボテンが!当たり前のことなのに、何だか嬉しい。
夕暮れ時に来ると西の地平線に壮大なスケールで沈む夕陽が見られます。

けれども一方では、ボストンという180度違う場所での生活をしばらく経験した後で改めてここへ戻ってくることで、このニューメキシコという土地をまた新しい目で見られたことも事実で、それはとても新鮮なものでした。

私はこの両極端に違う2つの場所に住んだことのある立場から、よくアメリカ人にも「どこが違う?」「どちらが良い?」と聞かれることが多いのですが、それくらい、ボストンの人々とニューメキシコの人々ではお互いの生活や街の様子を想像することも難しいようで、両者はまるで遠い異国の地の話を聞くかのように耳を傾けてくるので少し面白いのです。

ボストンのあるマサチューセッツ州は、1600年代にイギリスから最初の入植者たちが上陸した土地として知られています。(マサチューセッツという名前は当時その地に住んでいたインディアンのマサチューセッツ族から。)
アメリカの車のナンバープレートにはそれぞれ州のニックネームのようなものが書かれているのですが、マサチューセッツは"The Spirit of America"。アメリカの精神、つまりアメリカはここから始まったという意味が込められているのでしょう。

アルバカーキのオールドタウン(旧市街)は、今ではスペインやメキシコの
面影を残した観光地に。ふらりと細い横道へ入ればそこはパテオに
なっていて、まるで隠れ家のようなレストランやギフトショップが。

一方でニューメキシコ州が正式にアメリカ合衆国の州となったのは1912年のことで、50州の中で47番目という、言ってみればまだアメリカとなってから日の浅い新しい州なのですが、実はマサチューセッツにイギリス人が入植するより100年も前に、メキシコから入ってきたスペイン人によって早くも近代の開発が始まっていた土地であり、州都のサンタフェの創設は1607年と、全米で2番目に古いのだそうです。(ちなみに一番古い街はフロリダ州のセントオーガスティン。こちらもスペイン人によって建てられた街です。)

元から居住していた多くのインディアン部族の力も根強く、またスペイン撤退後はメキシコの統治下であったこともあり、様々に交錯した文化の表情を併せ持った、実はとても歴史と趣のある土地なのです。

ちなみに、そんなニューメキシコのニックネームは"The Land of Enchantment"(魅惑の地)。なんだかちょっと謎めいていて魅力的な感じがしますね。

カラフルでキッチュな天使モチーフなどもスペインやメキシコからのカトリックの影響。
アメリカはプロテスタントが主流なのでボストンではまず見られないような雰囲気です。

民芸品なども素朴でカラフルなものが多く、インディアンのドリーム・
キャッチャーや唐辛子の魔よけ、サウスウエスタン調の織物など様々。

現在では、私が住んでいたアルバカーキがニューメキシコ州最大の商工業都市で、サンタフェはアーティストなども多く移り住む、品のある観光都市となっています。
州のあちこちには今でもインディアンの村が点在し、メキシコや南米からの移民も多いためスペイン語話者も多く、地名などにもインディアンの言葉やスペイン語が使われていて少しエキゾチックです。
また、ホワイトサンズ(珍しい真っ白な砂漠)やカールズバッド洞窟(巨大な地下の鍾乳洞)などの大自然の神秘を見ることもできる一方で、軍の施設やミサイル実験場、原子力関係で有名な国立研究所もあり、南の方へ行くと世界で初めて核実験が行われた場所や、UFO事件で有名なロズウェルも、ニューメキシコにあります。
こう書いてみても、本当に様々な表情を持つ不思議な場所だなぁとしみじみ・・・。

最初にこの場所に移り住んだ頃、ある人から「ニューメキシコに引っ越してくると、皆それまでに起こったことのないことが起こる。でもそのおかげでずっと強くなれる。ここはそういう土地なのよ。」というようなことを言われて印象に残っているのですが、確かにこの場所に住んだ2年間で、私は大きく変わりました。変わったというより、元の自分に戻してくれたと言った方がいいかもしれません。

何かこの場所では、余分なものを持ち続けることはできず、素の自分でしかいられないような、そんな力が働いているような気がします。

サンタフェにあるアメリカ最古の教会、サン・ミゲール・チャーチ。
アメリカ南西部から南米の間で用いられているアドビ(干しレンガ)
様式で建てられている。ニューメキシコの建築物はお店から住居まで
ほとんどがこの建築で統一されています。
(ただし現代は外観のみ似せたアドビ風がほとんどだそう。)

そんな不思議な魅力を持ち、私にとっては心から落ち着く土地で過ごした一週間。
毎日眺めの良い景色の中を車を走らせ、自然を身近に感じ、久々に会う友人と積もる話をして、お気に入りのカフェでコーヒーを買い、アドビの街並みを歩きながら空を見上げると・・・ふと、その中にいる自分がとても自分らしくいられていることを、ジワッと実感する瞬間が、何度も何度もありました。

そして、「そんな風に感じられる場所があるんだな・・・」そう思った時、昔住んでいた時にも全く同じように感じたことを、思い出しました。

こういうのを、心の故郷というのかな。

次回からは、そんなニューメキシコのことを、以前住んでいた頃に撮った写真も交えながら、改めて少しずつ紹介してみたいと思います。
そして少しでも、あの魅惑の地、"The Land of Enchantment"の魅力が伝われば嬉しいな、と思います。

サンタフェの街角で見上げた夕暮れの空に、赤く染まった不思議な雲が。
ニューメキシコの空は、やっぱり神秘的です。

More Posts