Albus the Cat


私たちの陶芸スタジオには、アルバスという名の白猫がいます。

飼っている、というよりは、「住み着いている」というような感じで
毎日とっても自由に、気ままに暮らしている様子なのですが、
私はそんな彼のことが大好きで、彼とこのスタジオの関係も
大好きなのです。

ハリー・ポッターに出てくるホグワーツ魔法学校の校長先生、
アルバス・ダンブルドアから取られたその名前・・・
Potter=陶芸家、ということで誰かがつけたようなのですが、
本当にその通りで、彼はこのスタジオのまるで校長先生のような
存在です。

「外に出たいのです」とニャーと鳴いては、 その場に居る人にドアを
開けてもらって、「中に入りたい」と言ってまた開けてもらい、
お腹がすいたときにはニャーニャーと訴えて、作業中のスタジオ
メンバーの手を止めさせ、餌を出してきてもらいます。

寒い日には作業台の上やフォークリフトの運転席で、そしてお天気の
いい日は裏庭に出て、のーんびり、お昼寝。


作業をしようと広げた新聞紙の上にどっかりと座り込んできたかと
思えば、たくさんの素焼きの陶器がならぶ棚の上をすすっと駆け抜け
ていって、割ってしまわないだろうかとひやりとする私を尻目に、
本当に上手に作品の合間を縫っていきます。

たまに近所の猫と遊んだり、ときどきその周辺に現れるクジャクを
追いかけたり・・・のびのび、気ままで、うらやましい限りです。

 カメラを向けられて迷惑そう・・・ゴメンネ!

そのアルバスがスタジオメンバーの中で一番なついているのが、
私の先生でもあるスチュワート。
2年前に奥様を亡くしたスチュワートは、私がここにきて最初に陶芸を教えてもらった先生で、ゆっくりと丁寧に、まるで少年のように創作に没頭する姿がとても印象的なご老人です。

お年を召しているのに加えてテキサス訛りの英語が、私にはさっぱり
理解できず、彼も日本人など初めてだったので、こちらのアクセントも
聞き取れずに、最初の頃は本当に、なんだかちぐはぐでした。

言葉の問題に加え、日本でいう「先生」と「生徒」の関係・・・教える側の言うことを受けて忠実に再現する・・・ということを念頭に置いていた私は、彼のような根っからのアーティストの感覚的な教え方には、
最初はずいぶんと戸惑いました。

そんなある日、スチュワートからとある技法を教えてもらっている時、
2人して裏庭に出ると、ちょうど西の空が一面、美しい夕焼けで
いっぱいになっていました。

私は、「わぁ・・・!」とそちらを見つめたくなる心を抑え、
教えてもらっていることに集中しなきゃと、意識を手元に向けようと
したのですが、その時、彼が

「わあ、見てご覧。なんて綺麗な夕焼け!」

と、作業はそっちのけで、まるで子供のように感嘆の声をあげたので
私はなんだか拍子抜けしてしまい、そして同時になんだかとっても
ホッとしたのです。

「本当だね・・・!」

私もそうして、その空を見上げました。
そしてそんな彼の横顔を見ながら、私は彼のことが大好きになりました。

そんなスチュワートとアルバスはとても仲良しで、見ていると、何だか
おかしな言い方かも知れませんが、2人は同じひとつの魂なのでは
ないのかなぁ、なんて思えてくるのです。

そして私はそんな2人を見ているのが、とても好きです。


最初はストレンジャーだった私のことを、スチュワート同様、
アルバスも最近はメンバーだと認識してくれたのか、名前を呼ぶと
ササッとこちらへ寄ってきてくれるようになりました。
そして私の手にちょっと甘えては、ガブリと噛み付いて去っていきます
・・・!


"He knows everything."

そんなふうに誰かが言っていましたが、ほんとうに、アルバスには何か
すべてを知っている、見抜いているかのような不思議な存在感があって
ずっと家の中で、人間の目の届く範囲内で生きているうちの猫たちとは
絶対的に違う何かがあるように思うのです。

いったい彼は、毎日どこへ出かけて、どんな世界を見ているんだろう。

すっと裏庭のフェンスをすり抜けて、いとも簡単に、私の知らない
向こう側の世界へと消えていくその姿は、まるで神様か精霊のようで
私はその彼の背中を見ながら、いつも不思議な気分にさせられます。

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