Knock, knock


ボストンから車で1週間かけて、ニューメキシコのアルバカーキまで、旅するように引っ越してきました。

出発したその夜はちょうど満月の頃で、コネチカットの暗い木々の間をゆく道を、月の光が頼もしく照らしてくれていたのを覚えています。

そのままNY、夜の煌めくマンハッタンを横目に通りすぎ、最初の目的地であるフィラデルフィアまで。

その後はひたすら西に向けて、ぺンシルベニア、オハイオ、インディアナ、イリノイ、ミズーリ、カンザス、コロラドと、いくつもの州を通り抜けて、最後はニューメキシコに向けて南下するという、約4000キロの道のりを、日中はとにかく車を走らせて、日が暮れると近くでモーテルを探して泊まるという毎日でした。


昔から車でアメリカ横断をすることに憧れていたのですが、私のイメージしていたRoute 66のような古き良きアメリカンロードは、残念ながらもう今では古くなって、ほとんど使われていないとのこと。

新しい高速を通っての旅は、思ったよりも簡単で、ちょっと拍子抜けしてしまいました。

それでも、州をまたぐごとにだんだんと変化していく道路脇の景色はすばらしく、今までみたこともないようなだだっ広い風景や乾いた景色、そして感動的なまでに美しい夕陽や、宝石箱のように瞬く満天の星空・・・

まるで雑誌のページをめくっていくかのように毎日出会う景色は、ひとつひとつ、私の心の中にしっかりと刻み込まれていきました。


そして、ボストンはこの広い広いアメリカという国の、ほんの一部分でしかなかったんだな・・・と、当たり前のことなのですが、そんなことを思わずにはいられませんでした。

また、そんな広大な景色の中をずんずんと走っていると、ときどき町や都市がぽこん、と突然出現したりするのですが、そんなところも、なんともアメリカらしいなと思いました。

例えばヨーロッパなどでは田舎町を走っていても、なにか歴史的なものがあったり、その土地土地の文化的なものを感じられて、景色もゆっくりとグラデーションのように変化していくと思うのですが、こんなふうに何もない大自然の中に、ぽん、と人工的なものが置かれている・・・そんな風景を見ていると、ここはやはり新しく建てられた国なのだということを実感させられました。


途中、何度か高速を下りていくつかの場所に立ち寄ってみたのですが、町とは名ばかりのモーテルとファストフードのお店しかないような場所や、恐ろしくのどかでよそ者が入ってきただけで目立ってしまうような村、アーミッシュの人々(電気等を使用せず、昔のままの伝統的な生活スタイルで自給自足の暮らしをするドイツ系アメリカ人)が暮らす緑豊かな集落や、昔は大都市だったのに今では廃れてしまってほとんど廃墟と化している町、そしてよくもまあこんな場所に移り住んできたものだなぁと思うような内陸部にある北欧系の人たちが住む小さな可愛らしい町など・・・

こんなふうに車でふらりと立ち寄らなかったらきっと一生知ることのなかったようなアメリカのマイナーな部分を、ちょっと垣間見たような気がしました。


そんなふうに、少しずつ表面的な印象だけをさらって通り過ぎていく旅は、まるでその町のドアをトントン、とノックしては、まだ返事が返ってこないうちに立ち去ってしまうかのようで、ほんとうはあそこはどんな町だったんだろう?と後になっても気になっていて、ちょっと調べてみたり。

その土地の空気、人々の雰囲気・・・
それぞれに違っていて、なんだか無骨だったり、よそよそしかったり、フレンドリーだったりとするのですが、それも本当のところはどうなのかな?

もう少し長く滞在したり暮らしたりしたらきっと、もっともっと色々なものが見えてくるのだろうと思うのですが、こうしてノックしては次々と通り過ぎることもまた、ひとつの視点なのかもしれません。


そんなふうに旅してたどり着いた、アルバカーキ。

ここがまた、同じアメリカでもボストンとは180度違う、とても興味深いところです。

カラッと乾燥した涼しい空気に、焼けつくような強い日差し。
メキシコ系の人々が多く住んでいるので、日常的にもよくスペイン語が聞こえてきます。
景色が横長で日が長く、ちょっと私の故郷を思い出させられるようなところもあって、夕陽を見ては少しセンチメンタルな気分になってしまいます。

ここに来てまだ1週間ほど。

ここでもまた、トントン、とドアをノックして、いったいどんな返事が返ってくるのか、ドキドキしながら待っているところです!

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