A Greek Village in the Mountains - Sirince
St. John Baptist Church in Sirince, Turkey
イスタンブールとカッパドキアを周った後、私たちは再び友人家族の住むイズミルに戻りそこで数日を過ごすと、その後またロードトリップへと出かけました。
この旅は、今回のトルコ旅行の中でも個人的に一番のハイライトだった、古代ギリシャ、ローマ時代の遺跡を訪れるのが目的でした。
トルコでギリシャ?ローマ?と思う方もいらっしゃるかも知れませんが、イズミルの記事でも書いた通り、この辺りは古代より様々な勢力が入れ替わりに納めてきた土地なので、そういった遺跡も残っているのです。
まず初めに目指したのは世界遺産にもなっているエフェソスという遺跡なのですが、その直前に、近くにシリンジェという古い村があると知り、訪れてみることにしました。
イズミルから車で南へと1時間ほど。最後にクネクネとした山道を上っていくと、そこにはなんとものどかな風景が広がっていました。
やがて山間にオレンジ色の煉瓦屋根の家々が見えてきて・・・それが、まるでおとぎ話に出てくるかのような小さな村、シリンジェです。

山間にオレンジ色の煉瓦が美しく映える小さな村、シリンジェ。
シリンジェはかつてはギリシャ人が住んでいた村。
トルコが共和制になった後、ギリシャとの戦争で、トルコ領内のギリシャ人とギリシャ領内のトルコ人を交換するという条約が交わされ、その時にギリシャのテッサロニキに住んでいたトルコ人達が、この村に移ってきたのだそうです。
そう言うわけでギリシャ人によって始まったこの村は、住民がトルコ人に変わってもギリシャっぽいものがそのまま引き継がれていて、例えば民家の建築様式はギリシャ式と呼ばれる独特のものだったり、村の一番高い丘の上にはギリシャ正教会の建物も残されています。(この記事の一番最初の写真がその教会です。)
トルコでは珍しい、ギリシャ式の白い壁の家。
シリンジェが有名になって来たのはここ数年のことで、外国人だけでなくトルコ人にとっても観光地なのだそう。
と言ってもいかにも観光地といったような雰囲気は全くなくて、むしろ人々の暮らしがそこかしこにそのままに感じられ、ナチュラルで素朴なままの姿を見ることができます。
道端のお土産やさんの人々もまるで商売っ気がなく、ひたすらのんびり。
ミモザかな?黄色い花で作った冠。可愛すぎるお土産物。
石畳の小道の脇には民家やレストランやお土産物やが並び、辺りには私の好きなオリーブや柑橘系といった地中海性気候らしい樹木が植えられていて、所々に咲いているバラなどの美しい花々が素朴な街並みに華やかな色彩を添えていて、なんだか本当に夢のようにピースフルです。
道端のお土産物屋さんには、色とりどりの刺繍の入ったワンピースやテーブルクロス、オリーブ石鹸にハーブなど、これまた素朴で可愛らしいお土産物が並び、ギリシャ人が住んでいた時代から引き継いだワインづくりも行われているため、ワインもここの名産品となっています。
この村に咲く薔薇が綺麗で、いくつも写真を撮ってしまった。
いくら商売人でも、イスタンブールの商人のような狡猾さや巧妙さと比べると、ここの人たちにはやはりどこか、あたたかな素朴さがあるのですよね。
ふらりと入ったジュエリーショップは、なんと店主があの映画「トロイ」のジュエリーデザインをしたというお店だったのですが、当の店主はほとんど喋ることもなく店内で黙々とジュエリーを作っていて、代わりにその息子さんが流暢な英語で一生懸命セールストークをしてくるので、しばらく彼と色々な話をして盛り上がっていました。
とあるレストランの脇にあった、ナザールボンジュウ。
有名な、トルコの魔除けのお守りです。
そのお店を出てしばらく行ったところにもう一軒ジュエリーショップがあり、そこにも入ってみると、そこの店員さんも「僕の叔父さんはトロイのジュエリーデザインをした人で・・・」と言うではありませんか。
「んん?これは典型的な呼び込み文句なのか?」
と、ちょっと警戒したのですが、どうやら先ほどのジュエリーショップの店員さんとは従兄弟なのだそうで、とういうことはあの、先ほどの店内で黙々と作業をしていたおじさんは、本当に彼の叔父さんだったのですね。(ホッ)
彼も英語が話せたのでおしゃべりに花が咲いたのですが、聞いてみると彼はかつてニューヨークに住んでいたり、日本にも行ったことがあるなど、この村を出て色んな世界を経験しているようでした。
「ニューヨークも東京も、この村とは別世界でしょ。どんな風に感じたの?」
と聞いてみると、やはり世界には色んな場所があること、都会は刺激的で便利で人もたくさんいて楽しかったことなど、この山奥の小さな村とはあまりにも違いすぎることなどを複雑な心情も含めて話してくれました。
それでも最後には、
「でもやっぱりこの村が大好きだよ。穏やかで、美しくて、心安らぐ。僕の故郷だもの。」
と言うのを聞いて、なんだかホッとしてとても嬉しく感じたことを今でも不思議と覚えています。
「トロイ」のジュエリーデザインをしたという店主のお店
・・・の前で昼寝をする黒猫。平和だニャ。
それからこの村では、石畳の小道を歩いていると、そこかしこに古い道具などが無造作に置かれているのがよく目に留まりました。
古い竃に、コンロに、秤や甕、看板・・・
そして、錆びて朽ちかけたそれらの物たちには傍の植物が根を張っていたり、誰が摘んだのか草花がその上に置かれていたりと、何かとてもフォトジェニックだなぁと感じたのです。
そして私は、美しい街並みと同じくらいにそれらのもの言わぬ物たちに惹きつけられて、幾度となくカメラのレンズを向けてしまいました。
もう使われなくなってしまったただの物のはずなのに、なんという存在感なんだろう。
ただの使い古された物なのに、どうしてこんなにも何かを語りかけてくるんだろう。
それはきっと、そこにこの村の人々の暮らしや息遣いを感じるから。
これらの物たちもこの村の大切な住人なんだろうな・・・と、帰ってきてからその写真たちを見て、しみじみと思ったのでした。
時代の流れから逸脱してしまったような、時が止まっているかのような、穏やかでピースフルな村、シリンジェ。
トルコだけれどトルコでないような、そんな魅力を持つ、素敵な村でした。
こんなところがあるんだなぁ・・・