Heartstrings


ここ数日は雨が続いています。

最近はこの寒い場所にもだんだんと春の気配が感じられ
てきていたところだったので、そんな時にこの雨降りはちょっと憂鬱・・・

でも雨のせいで湿度が高まると、感覚的にすこし日本を思い出します。

頭で意識していることとは別に、体や心って、そんな風にちゃんと色んなことを覚えているものなんだなぁと、なんだか妙に感心してしまいました。


日本語に「心の琴線」という言葉があります。

何かに深く感動した時など、「心の琴線に触れた」という表現をしますが、私はこの表現がとてもすきです。

この言葉をどこまでの範囲で使うかは人それぞれだと思うのですが、私は、この言葉をちょっと特別なものだと思って使うことにしています。

例えば、「感動する」というのは、多くの人が共有できる共通の素晴らしいもの、といった感じがしますが、この「心の琴線に触れる」というのは、なにかもっとこう、個人的な感覚のような気がするのです。

自分のとてもプライヴェートな感覚に対してうったえかけられる何か。

それは、自分から働きかけるというよりは、「見つけられてしまった」というような感じで
全く想像もしていなかったところからふっと来たものが
自分でも気づいていなかった感情や言葉にならないような感覚と共鳴し
そこで心が震えたり涙がぽろりとこぼれたりして初めて、自分で自分の感情に気づくような・・・そんな感じがします。

私がそういう感覚になったのは、そのほとんどが音楽を聴いたときだと思うのですが、それはたぶん、音楽というものが形のない、波動の状態のものだからだと思います。

目に見えず、触れることもできないもの。
だからこそ、何の前触れもなく現れて、すうっと自分の中に入ってきてしまいます。
そこにはきっと思考の入る隙間なんてなくて、それこそ打てば響くように、体や心が勝手に反応してしまうような感じです。

それが「心の琴線に触れる」ということなのかな、と思います。


それにしても情緒的なこの言葉・・・
いかにも日本的な美しさだなと思うのですが
はたして英語では何と表現したらいいんだろう?

be touched でも
be impressed でもない、
もっと繊細でうつくしい言葉・・・

何かを表現するときに、それにぴったりの英語が見つからないときというのもよくあるので、この「心の琴線」に相当する言葉も、もしかしたら英語にはないんじゃないのかなぁ、と思っていたのですが・・・すごい、ちゃんとありました!

'Heartstrings'

'Heart' はもちろん心。そして'Strings' とは弦楽器の弦のことなので、語の構成もまさに「心の琴線」と同じです。

英語でも日本語でも偶然に同じような言葉が生み出されたのか、それともどちらか一方が他方の翻訳なのかはわからないのですが、
どちらにせよ、心の感情のヒダを楽器の弦のように表現したこの言葉がとても美しくていいなぁと思います。


「素朴な琴」

この明るさのなかへ
ひとつの素朴な琴をおけば
秋の美くしさに耐へかね
琴はしづかに鳴りいだすだろう

              八木重吉


秋の美しさの中にあれば、ひとりでに奏で始めるであろう琴のように
私たちの心もきっと、それぞれの琴線に触れるものと出会うことで
喜びや感動に震え、深い至福感に包まれるのだろうと思います。


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