Tranquility
空が高く、頬をなでる風もすこし涼しく感じられるようになって
きました。
夏が終わってゆくときは寂しいけれど、秋の訪れを感じると、
やっぱり秋も好きだなぁとじんわり思えてきます。
そんな最近のこと、近所の池に、初めて白鳥が来ていました!
その日はいつも見かける鴨や雁の姿が見えなかったので、なんだか
寂しいなぁと思いながら歩いていると、池の奥の静かな場所に、
二羽の純白の白鳥の姿を見つけてハッとしたのです。
わぁ!と、私は思わずそのまま引き寄せられるように茂みをかき分けて
池の畔まで降りて行き、水草や木の枝の陰からこっそりと覗き込んで
しばらくの間、その静謐な美しい姿に見とれていました。
鏡のような水面に静かに浮かぶ、つがいのような二羽の白鳥。
季節の変化とともに、どこか遠くから渡ってきたのかな。
何千キロという空を旅しているかもしれないのに、そんな疲れも見せず
なんて優美な姿なのだろうと思います。
そういえばニューメキシコにいた頃も、秋になるとたくさんの鶴たちが
越冬のために遠くアラスカやシベリアから渡ってきていて、その姿に
何とも言えない感動を覚えました。
自然の中で逞しくもしなやかに生きる動物たちの美しさを目にすると、
何かとても神秘的で、そこは私たちには手の届かない、神聖な世界の
ような気がしてしまいます。
静かな、静かな時間。
いつの間にか、私もその不思議な深い静寂の中に引き込まれていました。
辺りを取り巻くのは、自然の音楽。
風に吹かれる木々のざわめき。虫や小鳥の声。
カエルの鳴き声に、リスがすぐ側の木の枝をササッと駆け上がる音。
木の実が地面にポトンと落ちたり、魚が水面を跳ねる音。
そんな、たくさんの繊細な音たちが複雑に交じり合って、
不規則なのに完璧に調和がとれている・・・その妙を思うと、
何かすべてのことに対する深い理解につながるような気がしました。
二羽の美しい白鳥は、まるでその自然の奏でる音楽を背景に踊る
バレリーナのようだなぁと思いながら、私はその時、そこにある全ての
ものが調和して、ひとつの完璧な世界になっていることに、密かに
感動していたのでした。