Youth


最近、とてもなつかしい本に再会しました。

数ヶ月前に他の州から引っ越してきた友人のおうちに遊びに行った
帰り際、「何か読みたい本があれば持っていってね」と彼女が本棚を
見せてくれました。

「旅の本とかないかなぁ」
このところ、どこか旅行に行きたい気持ちでいっぱいの私のそんな
要望に、「じゃ、これは?」と手渡してくれた本。

それは、私が学生の時に読んだ「ASIAN JAPANESE」という本でした。

思わず声を上げるほどそれは私の中では印象的な本で、更にはそれを
彼女が持っていたことにも、私はとても驚きました。

「えっ、なつかしい!これ・・・」

小林紀晴さんという、今も活躍されている写真家、文筆家の方の
東南アジアとパリへの旅、そこで出会った日本人のことを
モノクロの写真とともに綴ったものでした。


その当時20代だった小林さんが、その若い視点からの日本の社会へ
の疑問、そこからの決意の脱出、そして生きていることを身体の芯から
実感できるような、ものすごいエネルギーで進んでゆく東南アジア諸国
と、それとは正反対に、100年前からほとんど変わらない自立した街、
パリで感じたこと・・・

まわりに外国人の友人や個性的な友人たちも多く、沢木耕太郎さんの
「深夜特急」を読んだことも重なって、もともとのんびりした性格
だった私は何かとても刺激を受け、「このままじゃいけない!」と
一人バックパックの旅へと出たのでした。

その話を友人にすると、

「そうなんだ。でも、わかる。私も大学を卒業して就職したんだけど
東京で毎日満員電車に揺られて夜遅くまで働いて・・・
で、ある日会社帰りに駅のホームでふと『こんな生活、だめだ』って
思って辞めたの。そしてこの本を読んだときに、自分もアメリカに
行ってみようって決心したところがある。」


彼女と私はほぼ同い年なので、あぁ、あの頃って、そうだったよね
と、若かりし頃を思い出しました。


その本を借りて、家に帰って読んでみると、なつかしさとともに、
「あぁ、若いなぁ」と、ずいぶんと大人になった自分の受け止め方に
何だか時代と年月を感じてクスッと笑みがこぼれました。

そういえば、と、日本から持って来ていた本の中に現在の小林さんの
インタビューが載っていたことを思い出して読み返してみると、
彼自身、20代の頃は知らない世界を見たい、触れたいという抑えきれ
ない衝動があって、とにかく外へ外へと、できるだけ遠くへと行った
けれど、30代半ばにNYから日本に戻って来てからは、もっと身近な
ことや自分の故郷へと意識が向かっていったということが書かれて
いました。


私はあのとき一人旅に出て、それが結局何になったの?と言われれば
特に何と言うこともありません。
ただあのときは、もっと広い世界を見なきゃ!とか、一人でも何でも
できる人間になりたい!とか、何か焦りのような、決意のような、
そんなものがありました。
それが、若さだったんだなぁと思います。

私の目指した先は、好きだった映画「グラン・ブルー」の舞台と
なったシチリア島でした。

憶えているのは、ローマからナポリまでの長い列車の窓から見た
のどかな風景や、ナポリからシチリア島まで夜行のフェリーに
ドキドキして乗ったこと。

はるか昔にヴェスビオ火山の噴火によって埋もれてしまった
ポンペイの遺跡。
島中に溢れていたレモンの黄色とシチリアの青い青い海。

旅先だからこそ出会った日本人との会話はとても新鮮だったし、
そういえば、寄り道したカプリ島で、アメリカからツアーで来ていた
おじいちゃん、おばあちゃん3人組と一緒に島を歩いていたとき
なんだか途中であまりにも美しい夢のような景色に、訳もなく
悲しくなって涙がぽろぽろとこぼれて・・・
彼らがびっくりして、オロオロしながら優しく慰めてくれた
なんてこともありました。


なんだか全てが若くて、ピュアで向こう見ずで。
今だったら絶対、できないだろうなぁあんな旅は。そう思います。

でも、あの頃に「自分はこんなふうに生きたい」と思ったことは
すいぶんと抽象的ではあったけれど、今にもずっとつながっている
のは確かなのです。
あそこでそう思わなかったら、私はきっと今、ここにはいないだろう
と思います。

若さって、あとで振り返れば、ときに浅はかで滑稽で・・・
けれど、その若いエネルギーやパワーが素直に求めていたものは
自分という人間の、実はとってもシンプルな本当の欲求なのかも
しれません。


今、ここで生活していて、たまに日本人の学生さんに出会います。
のほほんとしている子、ピュアでエネルギーに溢れる子、
ちょっと斜に構えている子・・・
どの子を見ても、自分の若い頃を重ねることができて、いつも
微笑ましいなぁと思ってしまいます。

若いってすばらしい。

でも年齢を重ねてゆくことも、それに劣らずとても楽しくて
素敵なことだなぁと私は思います。

"Memento mori", and "Carpe diem".


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