Moments

この土地へ来て、するするとまるで風のようにひと月が過ぎました。
都会から田舎へ。
その変化にあっという間のような気もするけれど
もうずいぶんと前からここにいるような、馴染みだったり
落ち着きだったり、そんなものを感じたりもしています。
「グラウンディング」という言葉がありますが
ここでの生活はまさに「地に足をつける」というような感覚。
広大な自然にぐるりと囲まれた街の片隅で
毎朝起きては、掃除をして、洗濯、料理、生活用品の買い物
そして猫の世話や植物に水をあげたり。
日常的なことをマイペースにこなしながら
時々ベランダに出て風を感じて過ごしたり
近場の自然の中を歩いて、太陽の光や大地の匂いを吸収する・・・
そんなことをして毎日過ごしていると
日本やボストンでの生活では、外部からの刺激が多くて
気づかなかったことが何とたくさんあったのだろうと
日常の中の小さな発見や自分自身の心の動きに
密かに感動しています。
そうして感じたことをいざここに書こうとしたとき
なぜだか筆が進まなくて、あれ?という日々が続きました。
今までは毎日の生活の中で感じたものを自分の中に凝縮させて
それを文章にしていたのですが、なぜかここではまとまらないのです。
例えば散歩をしている途中など色々なことが浮かんで来るのですが
それらは私の中にとどまらず、そのまま風にのって
空にふわっと舞い広がっていってしまうような、そんな感じです。
それでも感覚だけはちゃんと消えずに残っている。
言葉にならないのです。

それになぜか今はあまり写真を撮りたいとか
そういう欲求が湧いて来なくて、自分でも不思議でした。
写真は瞬間を切り取るものですが
シャッターを切るその一瞬の前後のタイミングというのは
ほとんど記憶に残らないものです。
シャッターを切る。
その瞬間だけのために、感性、集中力、動き、、、
すべてを凝縮して捧げているので、その前後の時間というのはもちろん
余裕を持って感じることはできません。
凝縮され、切り取られた瞬間。
それが写真の愛おしさだなぁ、と思うのですが
今はその一瞬だけはなく、その前後も、すべての瞬間を
どこにも優劣をつけず、滑らかなつながりとして感じたい
たぶん、そんなふうに思っているのだと思います。
瞬間。瞬間。
時間の流れというのは、その瞬間たちの連続で成り立っていて
それが「人生」と呼ばれるものにもなっている。
時間という概念は、ほんとうに不思議です。
もしカメラですべての瞬間を切り取ることができたら
人生の写真集がつくれてしまったりするのかな。
そんなことも考えながら。
もうしばらくは、とっておきの瞬間をとらえることよりも
その流れをただ感じていたいな、と
そんなことを思って今日も一日が始まります。
