Two Valleys - Napa

ひと月前、一週間ほどサンフランシスコに滞在していました。
久しぶりの西海岸にワクワクしていたのですが、最近私は都会にいるとすぐに疲れてしまうので、思い立ってきれいな景色やのんびりとした空気を求めてサンフランシスコを抜け出すことにしました。

向かったのは、ふたつの谷。
ナパ・バレーとヨセミテ渓谷です。

マサチューセッツの20倍もの面積を持つカリフォルニア州は、その気候もそこに暮らす人種においても、大変に多様性のある土地です。
真下にはちょうどプレートの境目があるため地形的にも起伏に富んでいて、飛行機から見下ろしてみると、山脈に谷、砂漠地帯と、ダイナミックなその美しさに私はいつも目を奪われてしまいます。

その中でもサンフランシスコのある北カリフォルニアは山脈と渓谷が多く、農地にもなる肥沃な土地にも恵まれていて、雨も多くて夏でもわりと涼しい地域です。

カリフォルニアというと海やセレブやハリウッドといったイメージばかりが思い浮かんでしまったりするのですが、実際に行ってみるとそれらはほんのごく一部で、地球規模で感じられる大自然やのんびりと素朴な雰囲気の感じられる場所がたくさんあるのだなぁということに気づかされます。

ナパはカリフォルニアきってのワインの産地です。
サンフランシスコから車で気軽に行ける距離にあるのですが、この辺りまで来るとベイエリア都市群の雰囲気とはがらりと変わってゆったりとした雰囲気が漂い、ニューメキシコやアリゾナの小さな街を思い出させられるようなのどかさがありました。

この日は10月の終わり。
午後の陽射しがやわらかく紅葉した葡萄の木々に溶け込んで、谷全体がオレンジ色にふわりと包まれているかのよう・・・。

 ヴィンヤードの間の細い道。午後の陽射しがとても眩しかった。

いくつかのワイナリーに立ち寄りながら、写真を撮るために光の入り方の良い場所を探していたのですが、谷というのは視界が開けていないのでなかなか思うような場所が見つからず、しばらくあちこちをウロウロ。
それにしても、観光客は皆ワイナリーやレストランに車で直接入って行ってしまうからか、ちょっとした場所に車を停めて歩いてみても、人がまったく見当たらずとっても静かで、なんだか不思議な気分でした。

そうしている間にもどんどん陽が傾き始めたのを感じて、そうか周囲を山々に囲まれているおかげで陽が陰るのも早いのだ・・・！ということにはっと気がつき、ちょっとワイナリーの本筋から逸れて、山手の方に登っていってみることにしました。

谷にはもうだいぶ闇が降りた頃、少し高い位置から見下ろしてみると、周囲の山々がうっすらと霞んだように色づいていて、とてもきれいでした。
ちょうど、水彩画でオレンジ色をブルーグレイで薄く溶いたような、そんな色合い。

山手からの眺め。向こうに湖が見える。 

今まで色々な場所で夕暮れを見てきたけれど、どの場所もそれぞれに美しいと感じます。
こんな風に地球上の色々な美しさを見られることが、私の幸せの一つだなぁ・・・。

実は、せっかくナパに来たというのに、気がついてみればこの日一滴もワインを飲んでいなかった（！）のですが、それでもこういう景色だけでも本当に、充分に幸せです。

さらに山道を登ってみると、そこには谷の観光地的な雰囲気は全くなくて、小さな小学校や地元の商店やちょっと古びたガソリンスタンドなどがぽつりぽつりと。
アメリカの行く先々で、少し中心部を離れてみると、日本の山間部や海辺の街などと同じような素朴な雰囲気があって、とてもなつかしいようなホッとしたような気持ちになることがよくあります。
そんな時、きっとどこにいても人の生活というのはあまり違わないものなのかもしれないなぁと思います。


その後谷へと戻るともうすっかり暗くなっていて、空だけがまだ一面薄い夕陽色に染まっていました。
考えてみれば、谷で迎える夕暮れというのは、今までにあまり経験のないことだったような気がします。
周囲の山々の影がくっきりと闇をつくり、それがあっという間に谷底に伸びてきて一気に真っ暗になるというのは、少し新鮮な体験でした。

子供の頃に、外で夢中で遊んでいたらいつの間にか辺りが真っ暗になっていて、急に怖くなり、家に向かって一目散に走り出す・・・そんな記憶はありませんか？
それが私の実際の記憶なのか、何かのイメージなのか分からないのですが、谷の夕暮れにそんなことを思い出して、なんだか可笑しく思いました。

そういえば、その日はちょうどハロウィンでした。
谷に夜の帳が降りるのを見届けて、私たちはそのままナパの北にあるカリストガという小さな街のお化けパレードを見るために、急いで車を走らせたのでした。

谷の夕暮れ。この後カリストガへ。

ヨセミテについては、また次の機会に書いてみたいと思います！