Timeless
クリスマスの翌日、サンタフェにあるジョージア・オキーフ美術館に
行って来ました。
サンタフェはアルバカーキから車で一時間ほど。
大好きな街で、月に一度くらいのペースで訪れているのですが
なぜか今までこの有名なオキーフの美術館にはまだ行ったことが
ありませんでした。
それは多分、私が実はオキーフを特に好きではなかった・・・
というのが理由で、あまり心が動かなかったのかもしれません。
ところが、少し前にアルバカーキの美術館に行った時に
ちょうどオキーフの作品が数点置いてあったので、初めて実物を
鑑賞できたのですが、それが今まで写真集などで見ていたのとは
少し雰囲気の違う作品があったりしたので興味を引かれて、
それでもっと彼女の絵を見てみたくなったのです。
それもなぜか今年のうちに見ておきたいと思って、クリスマスの
休暇が明けてすぐに、サンタフェへと車を走らせました。
そうして対面できたオキーフの作品の数々。
写真集などの平面になった姿で見るのとは全然違って、
ひとつひとつの絵からものすごいエネルギーを感じました。
絵画でこんなふうに感じたのは初めてかもしれないというくらい。
オキーフと言えば、その鮮やかな色使いやグラデーションに
大胆な構図、といった印象だったのですが、それだけでは
ありませんでした。
強烈だけど静謐。大胆なのに繊細。有と無。
そんな一見相反するものが同居していたり、シンプルなようでいて
実はとても複雑なものを併せ持っているのです。
じっと見入っていると、まるでその絵の世界に吸い込まれていって
しまいそうな感覚に陥りました。
動物の骨や花をモチーフとしながらもどこか抽象的で、
美しいのだけれど、どこか生々しさを感じさせられる・・・
そうしてひとつひとつの作品にじっくりと向き合っているうちに
最近読んでいる本に書かれていることが急に思い出されてきました。
それはこの間日本から持ち帰って来た本の中のひとつなのですが、
音楽家の坂本龍一さんと人類学者の中沢新一さんが、日本の各地を
旅しながら縄文時代にまで遡り、日本人の心や文化の根っこの部分を
探っていくというものです。
元々世界の在り方というのは、無限に突き進むのではなく、
循環していくものであるということ
そしてそのサイクルには死と再生というものが必ず組み込まれている
ものであるということ
生きることだけに焦点が当てられ、死は追いやられ隠され、
無限に突き進んでいくという考え方に取り憑かれてしまっている
今の世の中の在り方を考えさせられるのですが、
その中で呈されている、「生命力に溢れた死」であるとか、
「死を内包した生」というものを、私はオキーフの絵を見て
なにかとても感じたのです。
オキーフはある時からこのニューメキシコの地に魅せられて移り住み、
その景色をずっと描き続けた人ですが、
私もこの場所に住むようになって、それまでは感じきれていなかった
自然との一体感であるとか、自分たちが生かされているんだということ
を意識するようになったので、きっとここはそういう、とても不思議な
魅力のある場所なのだと思います。
オキーフが人生で色々なことを経てこの地にたどり着いたとき
この土地と彼女、その両方のエネルギーが結びつき融合して、
このような作品たちが生み出されたのではないかなぁと思いました。
彼女がニューメキシコと出会う前、そして運命の人と出会う
NYに暮らす前の作品は、驚くほどに作風が違っています。
そのひとつが、私が最初にアルバカーキの美術館で見て驚いた
'Train at Night in the Desert' という作品なのですが、
それを見た時には、オキーフだということが信じられないほど
ファンタジックで、まるで物語の一コマのような作品なのです。
それは、当時テキサスで美術教師をしていたオキーフが職を辞め
アーティストとして活動するためにNYへと向かうとき。
彼女の乗った夜行列車が砂漠の中をゆくシーンです。
そこには後のオキーフの作品にあるような鮮やかな色彩や生と死を
連想させるようなリアリティはなく、まだ若い彼女が期待と不安を
胸に、これから新しい場所で始まる未来に夢を馳せているような
そんな印象を受ける作品です。
私はこれを見たとき、まるで宮沢賢治の銀河鉄道の夜だとか、
小林かいちさんのイラストなど、日本の大正時代や昭和初期の
ノスタルジックな雰囲気を思い出したのでした。
オキーフにこんな作品もあったのだと、それは自分の中でとても
印象深くて、その絵も、そしてオキーフのことも大好きになって
しまいました。
しかも、その作品は普段はNYのMoMAに所蔵されているようなので、
あの日偶然にもアルバカーキでそれに出会えたことは、ほんとうに
幸運だったんだなぁと思います。
(ちなみに、3年前にMoMAにも行っているのですが、あの時は
まったく気がつきませんでした!)
美術館にてポスターを見つけたので、購入。
いつの時代も芸術家たちが交差するNY、
そしてニューメキシコの不朽の大地から日本の縄文時代、
テキサスの砂漠をゆく夜汽車から大正モダン、昭和のノスタルジー。
時代も場所も越えて、オキーフというひとりの女性を起点に
私の心は様々な時代の色々な場所へと飛び交い
そしてまたすべてがひとつに繋がるような
そんな不思議な時間を私はその日、美術館で過ごしたのでした。
彼女が見ていたのときっと同じ風景が、今もこの土地には、
変わらずに悠々と広がっています。