Stray

この間、日本に一時帰国をしたとき、住み慣れていた街のあちこちを
車で移動する中で、「あれ、この場所は・・・」と
ふと忘れていた出来事が蘇った景色がありました。
あれはたしか、日本を離れるほんの数週間前の出来事だっただろうと
思います。
自転車で家に帰る途中、道端の植物の中に埋もれている
小さな白い毛むくじゃらを発見しました。
あれ?と、一度は通り過ぎかけたものの、視界の隅っこに
引っかかったその物体を確かめようと急ブレーキをかけ、
そのままよちよちとバックして戻ってみると
そこにいたのはなんとヨークシャテリアの仔犬でした。
飼い主と離れて迷子になったのか、それにしても相当弱っている
様子で、立ち上がることもできません。

可哀想で、しばらく体を撫でながら、どうしたらいいものかと考えていました。
とりあえず近くに住む友人に電話をかけて、
急いでタオルと段ボールを持って来てもらい
そのまま動物病院へと連れて行くことにしました。
診察してもらった結果、仔犬だと思っていたその子はなんともう
けっこうなお年のおじいちゃんであることが判明。
さらに、立ち上がろうとしてもヨロヨロと倒れてしまうのは、
交通事故にあったか何かで脳を打っている可能性もあるということで
口の様子も少しおかしくて、水やエサを与えてもうまく飲み込めない
ようなのです。
もっと詳しく調べるためには入院、精密検査、場合によっては手術
・・・ということを言われたのですが、その子は迷い犬なので
私が保護したからには私の犬。
ということで、病院にかかるすべての費用や、その後のケアや
飼い主探しまですべて私がみなければならないという条件でした。

時間もお金も貴重なうえ、色々なことがあって、毎日てんてこ舞いでした。
うちの猫の渡米のためにも、数ヶ月かけて注射や検査、マイクロチップの装着等の手続きに奔走していたところだったのです。
飼い主を捜すといってもどれだけ時間がかかるかも知れず、もしも見つからなくて新しく飼い主を探すとしても、こんなに衰弱した老犬で、さらに精密検査や手術もしなければいけないような状態の犬をいったい誰にお願いしたらいいのか・・・
どうしよう・・・と途方に暮れている私に、動物病院の先生が
申し訳なさそうに
「警察に届けたら、飼い主が見つかるまで預かってはくれます。
この近くに交番がありますから、そこへ行ってみては?」
と提案してくれました。
飼い主が見つかるまでって、、、見つからなかったらやっぱり
保健所に送られてしまうんだろうか。
というか、飼い主はこの子のこと探しているのかな?
こんなに弱ってしまった老犬、もしかして、
捨てられてしまったんじゃ・・・
次第に嫌な考えが頭の中をぐるぐると駆け巡り始める中、
だんだんと夜も更けてきてしまい、こうしていても仕方がないと
とりあえず交番へ向かいました。

とはいっても、実は心の中は諦めの気持ちでいっぱいでした。
何となく、飼い主が現れるとは信じられず、こんな状態ではこの先この子はどうなるんだろう。
もしかしたら死んでしまうかもしれない。。。
そのときふと、昔読んだマザーテレサの本に書かれていたことが
頭を過りました。
死を待つだけの人になぜそのように献身的に世話をするのか?
という問いに対し、彼女が
「亡くなってゆくとわかっていても、それまでの時間に
愛情をかけてもらったという記憶が、
その人にとってはとても重要なことなのだ」
というような答を返していたことがとても印象に残っていたのです。
私は最後まで面倒を見れなかったけれど、でもきっと、
今日私がその子を見つけて保護し、数時間の間だけでも体を撫でて
水を飲ませたり、話しかけたり、愛情をたっぷりとかけたことは、
きっと意味があるはずだと、
その時そのマザーテレサの言葉を思い出して何か強く思ったのでした。

そんな姿を見ていると、愛情って本当に栄養なんだなと思いました。
そして、後ろ髪を引かれるような気持ちを切り替え、
その子のその後の幸せを願う気持ちを精一杯込めて顔を撫でてから
交番を後にしました。
それでも、家に帰ってからもなんだか気分は晴れず、
うちの猫を抱きしめながら、うつろな気持ちで様々な動物の
それぞれの運命について考えていました。
あれでよかったんだろうか・・・
そんな後悔の気持ちが押し寄せ始めたころ、突然電話が鳴りました。
なんとそれは警察からの電話で、
あの子の飼い主が見つかったと言う連絡だったのです!

驚きました!
まさか見つかるなんて。
しかも、こんなにも早く!
よかった、飼い主さんはちゃんと探していたんだ!
よかった、あの子、幸せな愛情のある場所にちゃんと戻って行けたんだ!
もう嬉しくて嬉しくて、ろくに詳細も聞かずに、よかったよかった〜とお巡りさんとひとしきり喜びを分かち合って
電話を終えてしまいました 笑
だいぶ弱っていたし、きっと事故にあったのならこれから手術が
必要だったりするのかも知れません。
でも、飼い主さんの愛情の元であれば、もうそれだけで十分だと
思いました。
自分の対処が正しかったかどうか分からずにいたのですが
もう、こんな結果だったら本当によかった!と
心から喜べる出来事でした。
うちの猫も、一匹は元野良猫で、もう一匹は野良や捨てられた
犬猫を保護しているシェルターから引き取ったものなのですが
他にも Stray cats, Stray dogs との出会いは、そう言えば
子供の頃からこれまで、けっこうたくさんあったなぁ・・・と
あの場所を通り過ぎたとき、不思議な気持ちになりながら
そんな出来事を思い出したのでした。

今頃あの子はどうしているのかな。
きっと飼い主さんの元で幸せな老後の日々を過ごしているんだろうな。
久しぶりに思い出して、今日もとっても嬉しくなりました。