All the Things are White
ボストンに戻ってきて、初めて雪が降りました。
寒さの苦手な私はずっとこの時を恐れていたのですが、朝起きて
窓から一面白くなった景色を見たとき、わぁ、きれい・・・!と
思いがけず嬉しくなった自分にびっくり。
雪の日はいつになくとても静か。
表の通りを車が行き交う音も、隣人の物音も、雪はすべてを
吸収して、無音の真っ白な世界に変えてしまいます。
そしてその、しん、とした時間は、私の心をも深く静め、落ち着きを
もたらしてくれます。
こんな感覚はひさしぶり。
さて外出しようと、これまたひさ〜しぶりに防寒衣類を引っ張りだし
てきて、ダウンコートに、ニット帽、分厚い手袋に防寒ブーツ・・・
そして鏡に映った自分を見ると、あれれ、3年前と全く同じ格好で、
ププッと吹き出してしまいました。
おんなじ格好・・・それなのに、その中の自分はどこか違うような。
そういえばメイクも簡単になったし、髪の毛も元々の黒髪に戻って、
ちょっと年もとったのかもしれないけれど・・・そういうことよりも
何かこう顔つきが変わったなぁと、まじまじと鏡を見てしまいました。
外に出てみると、何ともなつかしい頬を刺すような空気。
バスの窓から眺める雪化粧のボストンの町並み。
すぐに、私の中で何かがブワッと溢れ出しました。
地下鉄の匂いも、人々の服装も、灰色の空も・・・
ボストンの冬なんて大嫌い、と思っていたけれど、
「そうそう、これ、これ!」とちょっと興奮気味に喜ぶ自分がいて、
私にとってのボストンとは、なつかしい、アメリカへ引っ越してきた
ばかりの頃の、こんな冬のボストンだったのです。
その頃と同じ景色の中、あれ、車内の広告が昔よりも分かるように
なっている、そういえば昔はここで乗り換えるにも一苦労してたなぁ、
・・・そんなふうに、なつかしさの中にもちょっと成長した自分を
感じ取ることができて、なんだか不思議な感覚を覚えました。
それはちょうど、ひとつのサイクルを一周したような、そんな感覚。
けれど、一周してまた戻ってきたその場所は、一見同じようでいて、
じつは同じではないのです。
それは螺旋階段のようになっていて、ある軸から見ると同じだけれど
別の軸から見ると違った位置にいる・・・そんな気がします。
きっと人生の中にはそんなサイクルが様々な単位やスパンであって、
自分のものも、そして他人のものも、いくつものサイクルが連動して
色々なことが起こっていくのだと思うのですが、私にとって、この
雪のボストンに再会したこともひとつの区切りで、あぁ、またここに
戻って来たんだな、そしてまた新しいサイクルがここから始まるんだ
な、と、その瞬間、確信のように思ったのです。
人生は時々、自分が思ってもみない方向へと向かっていったりして
混乱したりもするけれど、長いスパンで思い返してみると、あぁ、
そうだったんだ〜!と言うような絶妙なタイミングや流れを理解できて
つくづくうまくできてるんだなぁと感心してしまいますね。
ふと、前に、海外経験のある友人が言っていたことを思い出しました。
「海外に行ってやっていける人は二種類いて、一方はどこへ行っても
全く変わらない人、もう一方はどこへ行っても合わせられる人だ。」
それを聞いて私はきっと後者だなぁと思っていたけれど、でも今思うと
そんなに単純に分けられるものでもないのかもしれないなと思います。
これまで全く違った環境の中に入って行く度に、自分のそれまでの
価値観がぐっちゃぐちゃになるほどシャッフルされ、その混沌の中で
変わってゆく自分を感じてきたと同時に、どれだけ変化を経ても、
まるで何度濾過しても残っている本質という名のエッセンスのような、
そんな変わらない自分が確実にあることもわかってきました。
変わってゆく自分と変わらない自分と。
その両方があるから刺激的で、頼もしい。
新しいものを受け入れることへの抵抗感や、古いものへの執着心から、
場所も状況も人間関係においても、変化の時にはいつだって、混乱や
苦痛を経験するのだけれど、その度に一皮むけて、その直後の自分は
なんだか本当につるんとしていて、この雪のように真っ白で、そして
まるで生まれたての赤ちゃんのように、フレッシュでニュートラルな
状態になっているような気がします。
それはきっと、日々の中の小さな変化でも同じ。
どれだけ年を重ねても、そういう気持ちを忘れないでいたいなぁと
思います。
今回の写真は、5年程前にボストンを短期で訪れた時のものです。
この時も年末で、雪深い冬のボストンでした。
寒い場所には寒い時期が、暑い場所には暑い時期が、やっぱり一番
似合っているのかもしれない。
その方が、その場所の本来の魅力を最大限に発揮できるからなのかな。
雪のボストンを見ているとそんなことを思います。
人もきっとそう。
これまでの色々な場所や人々のことを思い返し、世界はほんとうに、
多様な魅力で溢れているなぁと思った、初雪の日でした。