Quantum


発明家のエジソンは、子供の頃、何かにつけて「なんで?なんで?」と訊く子だったので、「なぜなに坊や」と呼ばれていたそうです。

周りの大人たちは、そんなエジソン少年に相当手を焼いていたということですが、この彼の「なんで?」という素朴な疑問がなければ、その後の数々の素晴らしい発明はなされなかったことでしょう。

そういえば、私は子供の頃、星空の美しさに魅せられて星座やギリシャ神話が好きになりましたが、もしそこで「なんで星は光るんだろう?宇宙ってどうなっているんだろう?」という疑問を抱いていたら、もしかしたら宇宙物理や天文学の道を歩んでいたかもしれないなぁ、と時々思います。

そう考えると確かに、青い空を見上げたときに「なんてきれいな青!」と思った私は、写真やアートを好きになり、そこで「何で空は青いんだろう?」と考えたという私のパートナーは、なるほど、今、研究者になっています。

どうやら私は、心惹かれるものに出会ったときに感情や感性で反応する人間らしく、物理的・論理的に物事を突き詰めるという回路は持ち合わせていなかったようなので、当然ながら数学や物理は大の苦手でした。

それなのに何の因果か、後々なぜか物理学を専門とする職場で働くことになったのですから、人生わからないものです。

専門用語も数式もちんぷんかんぷん。
周りの人たちは皆頭が良くて、話し方もロジカル、ユーモアのセンスもシニカルで難しくてよくわかりません。
あぁ、私とは真逆のタイプの人種が生息する世界に来てしまった・・・と思いました。

ところが、そこで親切な彼らは何も知らない私に、とても分かりやすく物理学の基本を教えてくれたのです。
すると、あれ?なんだか、おもしろい・・・


毎日使っているコーヒーカップが。通りの木々の緑が。そしてこの自分の手のひらが。

この世の全ての物質は、電子の振動によって成り立っていて、例えばそこにある何の変哲もない机も、ミクロやナノの視点で見ると、ただの振動、エネルギーの塊で、その中では数えきれないほどの電子が飛び交い、常に動いているというのです。

幽霊やスピリチュアルの話なんかではなくて、それは間違いなく日常的に身の回りにあるモノ、現実世界の話なのに、なんだか不思議。
原子や電子なんて目に見えないし、しかも物質の中身は振動ってどういうことでしょう?
実態があるようでないような。

この机も?私自身も?

小さな小さな世界の中で起こっているそのことは、なにやら壮大で、まるで大宇宙のように私の頭の中に広がっていきました。
うーん、なんだかちょっと、ロマンチック。

ひょっとして物理学者って、案外アーティストと同じものを持っているんじゃないのかなぁ、なんて、そのとき思いました。

さらに。
ニュー トンなどの古典力学の時代には、モノにエネルギーを与えた時の動きが先のことまで、つまり未来のことまで「すべて計算でわかる」とされていたそうなのですが、現代の量子力学(Quantum mechanics)では、原子や電子というのは、目には見えない上に摩訶不思議な性質を持っているため、その存在や動きは確率でしかわからないのだそうで、つまりは予測することしかできず「本当のところは誰もわからない」とされているのだとか。

それが、また何とも衝撃的。
な〜んだ、結局わからないんだ!

物事のすべてを解明してしまいそうな物理学の世界にも、そんな曖昧さがあったのかと思うと、なぜだかホッと嬉しくなってしまいました 笑

世の中、何もかもすべてが解明され、不思議の余地がなくなってしまうなんて、そんなつまらないことはないなぁと思います。

空が青くてキレイだなぁと全身で感じる子供も
何で青いんだろう?と黙々と考える子供も

その先に正しい答えなんてあるのか分からないけれど
ただ面白いから、惹かれるから、なぜだか知りたいから・・・

そうして進んで行く先が、対象への興味の持ち方によって変わってくるだけで、出発点は同じ、未知なるものへの畏敬や探究心なのでしょう。

きっと皆、捉え方やアプローチが違うだけで、この世の中がどうなっているのか知りたいんだろうなぁ。
人間って、そういうものなんだろうな、と思います。


そんなふうに、昔は無縁だと思っていた物理がちょっと身近に感じられるようになった今日この頃、書店でふと、一冊の本が私の目に留まりました。


'Alice in Quantumland' - by Robert Gilmore

「量子の国のアリス」。
不思議の国のアリスのストーリーに合わせて、量子力学をわかりやすく説明してくれる本のようです。
このアイデアと表紙に惹かれたのもありますが、前書きのこの一文を読んで、なんだか胸がくすぐられてしまいました。

'Anyone who did not feel dizzy when thinking about quantum theory had not understood it.'

ー 量子論のことを考えて頭が混乱しない人は、量子論を理解していない人である。

Neils Bohr という物理学者の言葉なのだそうですが、これが「な〜んだ、結局わからないんだ!」という私のとっても個人的な安堵感を、後押ししてくれるような気がしたのです。

これから飛行機に乗るので、この本を旅のお供に、ゆっくりと読みふけってみたいと思います。

雲の上、きっと私の心はアリスと一緒に、ふしぎなふしぎな量子の国を旅していることでしょう。

Bon Voyage!

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